「平気でうそをつく人たち」の強迫観念症になった男性は、臆病であるがゆえに呪術的思考に逃げる傾向が強く、逃げ続けた結果、呪術的思考に精神を支配されてしまった。しかしその原因は臆病さだけではないように私は思う。

彼は多弁で一方的に自分の話ばかりするし、強迫観念も含めてADDの傾向が見られる。ADD傾向があるゆえに人より共感力が低く、家族仲が悪くなった理由の1つもそれではないだろうか。呪術的思考にとらわれることと共感力の低さには何か相関があるのではないだろうか。

それをさらに感じるのがこの本で最後に紹介されている女性患者である。彼女は極端な共感力の低さと強い呪術的思考を併せ持つ。そして著者が治療に失敗した患者でもある。

彼女は失恋後のうつ状態を訴えて著者の元に訪れた。しかし著者には重症には見えなかった。知性は高いように見え、後に受けたIQテストでも高い値を示したらしい。にもかかわらず、平凡な大学で落第を繰り返し、仕事を解雇されることもあり何度も仕事を変えている。

ある日、著者が彼女から診療費の小切手を受け取った時、銀行が変わっていることに気づいた。そのことを彼女に話すと、前の銀行の小切手はいくつかのデザインがあり毎回違うものを使っていた。しかしすべてのデザインを使ってしまった。銀行を変えたのは新しいデザインの小切手を使いたいからだという。

なぜ毎回違ったデザインのものにする必要があるのかと聞くと、「愛の霊気の問題」なのだと言う。毎回、その時その人にどういうデザインが合うか考えて使いたい、同じ人に毎回同じデザインのものを使うのは嫌だと言う。まさに呪術的思考による儀式行為である。そして彼女の行動のほとんどが何らかの儀式にひもづいていたという。

彼女が能力以下の結果しか出せないのは、独自の儀式行為に従ったり自分勝手な方法で物事を進め、周囲を混乱させたり怒らせるからだった。しかし彼女はそれを気にもとめない。しばらく無職の期間があってから新しい仕事に就く時、著者が不安はないかと聞くと、まったくないと答えるのだ。やり方はわかっていると。解雇されるのはみんなが意地悪だからだと。自分に非があるとは全く思わないし、たとえ解雇されても落ち込むこともない。著しい共感力の低さゆえだろう。

やがて彼女は著者に先生のことを愛しているといい、体の関係を要求するようになる。著者は拒みつつ内面にかかえているものを打ち明けるように言うが、彼女は話をはぐらかし事あるごとに体の関係を要求し、治療の話もまったくかみあわない。そしてストーカー行為も働くようになる。

彼女は診療の最後の最後に一度だけ著者の言うことに従った。著者がようやくこれで治療を進められると思ったが、「先生は私を助けてくれない人だ」と言い、以来、顔を出さなくなったそうだ。

著者は彼女の両親が子供に関心がなく、それが原因で子供の時に満たされなかった愛を求めるようになったなどの分析をしているが、私にはしっくりこない。もっと単純な話で共感力が極めて低いために、人の感情や世間の常識がわからず、自分勝手な行動を取っていただけではないか。

この著者は優れた洞察力があると思うが、善と悪については宗教的な話を交え、人間の悪は科学では証明できないといった話もしている。しかし、これは間違いであると思う。彼がこの本で「邪悪な人」として紹介している人々は、現代心理学ではサイコパスと呼ばれる人々であり、これまで述べたように脳の活動のレベルで普通の人と異なり、遺伝的要因が大きいとされている。つまり彼の言う道徳欠落の邪悪性は科学で分析、証明できるものだ。

またこの著者は邪悪な人(サイコパス)が、呪術的思考にとらわれる傾向があるのは、子供時代に親から正しい扱いを受けなかったことが大きいと分析している。通常、幼児の頃は呪術的な考えをする(私ですらそうだった)。しかし、親が極端に几帳面でそれを強要したり、子供に関心を示さない親だったりして、子供の頃に何らか精神的外傷を受けると、呪術的思考の階段を抜け出せないこと多いと言う。

この分析は一見説得力があり、私の父親にも当てはまりそうな話である。祖父も几帳面な性格だったようで、父親も厳しくしつけられたようだし、子供に愛情を示すようなことも少なかったのだと思う。そういった子供時代の体験のせいで父親は呪術的思考を引きずるようになったのだろうか?

しかし、これは私と妹に照らし合わせると全く当てはまらない。父親は祖父に厳しくしつけられたが、整理整頓や神棚、仏壇に手を合わせるような宗教儀式を自分はやっても私達子供に強要するようなことはしなかった。にもかかわらず、妹には父親と似たような呪術的思考があり、逆に私はその思考を激しく嫌悪している。知らないところで妹だけが父親に宗教的しつけを受けていたということはないはずだ。

つまり、この事から呪術的思考を大人になっても引きずるかどうかは遺伝的なもので、私はそれを父から引き継がず、妹は引き継いだということだと思うのだ。平気でうそをつく人たちの悪魔と契約した男性、儀式行為のある女性どちらも親が宗教に過剰にはまる人間だったし、彼らの呪術的思考の引きずりも遺伝的な要因が大きいのではないだろうか。

>>つづく