サイコパスというと快楽殺人犯や保険金目当ての結婚詐欺師などを想像する人も多いと思うが、そのような人間はサイコパスの中でも特殊なケースである。実際にサイコパス傾向がある人は、アメリカ人の中で4%にのぼるらしい(アジア人はそれより少ないという)。100人中4人が快楽殺人者であるはずもなく、普通に社会生活を送っている者も多いのだ。

一口にサイコパスと言っても様々なタイプがおり、サイコパスかそうでないかの判別基準がはっきりあるわけではない。なので、私はサイコパス傾向がある人という表現を使いたいのだが、言い回しがくどくなるので、多くの場面で単にサイコパスと書かせてもらいたい。

そんなサイコパスにほぼ共通して見られる特徴は、共感力の低さである。共感力が低いせいで、道徳性が欠落していたり、人とは異なった規則によって社会性を保とうとする傾向があるのだ。そして、サイコパス傾向がある人とそうでない人は、脳の働きのレベルで異なっていることが実験で明らかになっている。

サイコパス (文春新書)
中野 信子
文藝春秋
2016-11-18


中野信子氏の著書「サイコパス」の中で、被験者に文字列(アルファベットの羅列)を見せ、その文字列が単語になるかをできるだけ早く判断してもらう実験の話がある。この実験は判断力の早さを測定するのではなく、単語になると判断した時の心理的反応を見る実験である。普通の被験者は当たり障りのない単語では変化がなかったが、rape(レイプ)のように不安を掻き立てる単語に強い反応を示したという。これは普通の感覚の人間なら想像がつく結果だろう。

しかし、サイコパスの場合、当たり障りのない単語であろうと感情を煽り立てるような単語であろうと、反応の変化が見られなかったという。別の実験では、「あなたを愛している」と言う時と「コーヒーを飲みたい」と言う時で、何ら脳の動きが変わらなかったことも確認されているという。こういった様々な実験からサイコパスをサイコパスたらしめている潜在的な形質は、遺伝的要因が大きいと考えられている。

サイコパスは共感力が低いせいで、空気が読めず社会に馴染めない者もいる。しかし、社会から脱落していく者ばかりではなく、社会にうまく溶け込み、場合によっては社会的成功を収める者もいる。社会にうまく溶け込んでいるサイコパスは、その共感力の低さを長所に変える事もあるのだ。

実際、普通の人よりも人の感情を読み取るのが得意なサイコパスも多いという。中野信子氏のサイコパスの中に、このような実験も紹介されている。被験者に人の目のあたりだけの写真を見せ、その人の感情を読み解かせる課題を与えたところ、一般の人の正答率は30%であるのに、サイコパスは70%にもなるという結果もあるらしい。

共感力が低いのに、なぜ人並み以上に感情を読み取れるのか不思議に思うかもしれない。実は自分が人と違う、他人と同じように感じられないことを自覚しているサイコパスは多いのである。そして、その欠点を補うために、他人の表情や感情を観察するようになる。そして普通の人はこういう時にこのように感じるらしいとパターンを覚えるように学習していき、人の感情を読み取ることが人並み以上に得意になっていくのである。

普通の人は共感力があるため、知人が楽しいと感じる時に楽しいと感じる。悲しいと感じる時に悲しいと感じる。そういった共感による感情表現が、わかり合える感情を相互に抱かせ人間関係の維持につながる。逆に共感力に乏しいと、人の気持ちがわからない人、何を考えているかわからない人という認識になり、人から敬遠されるようになる。

実際にそのように孤立していくサイコパスもいるだろう。しかし、人々がどういう場面でどう感じるかのパターンを観察によって学習し、普通の人と同じように一緒に楽しいふり、悲しいふりができるようになるサイコパスもいる。彼らはそうして人間関係を維持して社会に溶け込んでいるのだ。そして普通の人は、そのようなふりがうまいサイコパスを、サイコパスだと見分けることはほとんど不可能だという。

ここまでの話は本に書かれていたことであるが、私には自分事として納得のいく話である。まさに私も欠陥を克服して社会に溶け込むためにそのようにしてきたからだ。そして、彼らと同じくサイコパス傾向がある私だからこそ、本や実験で得た知識だけでなく実体験や自身の心理分析から深い考察ができることもあると思う。

次に私の少年時代から今に至るまでの経緯を書く。 

>>つづく