次も15歳の少年の話である。優秀だったのにもかかわらず成績が下がり、その理由をはっきりさせるためにと、学校の指導教員のすすめで診察を受けに来た。これはアメリカの話で日本では成績が下がったことで精神科医を受けるというのは一般的ではないが、おそらく指導教員は何らかプライベートで問題を抱えていると思ったのだろう。

少年は身なりがよく上流家庭の育ちであるように見えたが、精神科医の著者を警戒しているようで、質問にぶっきらぼうに答え、積極的にコミュニケーションを取る様子はない。しかし、「もし妖精が現れて願いを叶えるなら何が良いか」という質問に対しては、「寄宿舎に入りたい」と答えたのだ。

普通、15歳の少年にこのような質問をしたら、プロ野球選手になりたいとか、宇宙飛行士になりたいといった非現実的な願いを口にしそうなものである。しかし、少年が極めて現実的な希望を口にしたことで、家にいたくない理由があるのではないかと著者は察したようだ。

そして少年の両親と面談する。少年の身なりから想像できたように、彼らも身なりがよく、話しぶりからも上品な人間に見えたらしい。著者の質問に対しても、先ほどの労働階級の父親のように喧嘩腰で食って掛かることもなく、話をよく聞き明瞭に答える。しかし、成績が下がった理由はわからないという。

少年が宿舎に入りたいと言っている話をすると、確かに宿舎学校に行きたいと言ったことがあり、その事について真剣に考えたという。でも子供は親元を離れて暮らすべきではない。子供はあたたかい家庭で暮らすのが一番だと思ったから、宿舎学校には行かせなかった。もし、先生が宿舎学校に行けば問題が解決するというのなら、もう一度考えても良いという。

一見、子供のことを心配しているように見え、何の問題もない両親に見えたが、著者は何か違和感を感じたらしい。そこで著者は宿舎学校に入れても問題が解決するかどうかは確信が持てない、思春期の子供の心理療法の専門家を紹介するから、その先生の元で心理テストを受けることをすすめた。

そうすると、彼らは戸惑いを見せ、著者がもう一度少年と二人で面談したいと言うと、何とか話を切り上げようとし面談させないようにしようとする。それでも著者は食い下がり何とか数分、少年ともう一度二人で話す機会を得た。少年に心理テストのようなものを受けることになるかもしれないが心配するようなことはない。たいていは面白がって受けるものだと伝える。少年も大丈夫ですと答えた。

その後、心理療法の先生に連絡を取ったが、少年は面談には来なかったという。著者も両親の様子から行かせないだろうことは想像していたようで、この件はこれで終わりだと思ったそうだ。この時はそれほど深刻な話のようには思えなかったのだろう。しかし半年後、少年の父親から「息子がとんでもないことをしでかした。数日中に学校の校長から先生に手紙が行く」と連絡を受けるのだった。