面談からしばらくして、少年の両親から著者宛てにこのような手紙が来たという。先日は相談に乗っていただき、心から感謝していますなど礼儀正しい言葉から始まるが、その後につづられている彼らの少年への対応は、親としてありえないようなものだった。

彼らは先生のお言葉に従い少年を「宿舎学校に入れた」と言う。確かに最初の面談では宿舎に入れたほうが良いと言ったが、二度目の面談では少年は学校のことを気に入っているし、みんなにもよくしてもらっている。今、学校を変わるのは良くないと言ったにもかかわらずである。さらに、その寄宿学校とは素行に問題がある子供の教育に「大変評判がある」という軍隊学校なのだと言う。これですべてがうまくいくものだと確信しています。いろいろありがとうございましたと綴られて手紙は終わる。なんとも嫌な気持ちにさせられる結末だった。

私はなぜこの両親がこのような行動を取ったのか、自分の父親の言動と照らし合わせることで理解できた。彼らの行動原理は、社会人としての「メンツ」を保つことなのである。そして子供はメンツを保つための「お飾り程度」の存在でしかない。子供の気持ちになって考えたり、子供の人生がよくなるよう考えたりするよりも、自分のメンツを保つことを優先して考える人間なのである。

彼らは面談の際、子供のことを心配しているかのようにふるまい、実際に面談にも来ていることから、表面上は子供のことを思う両親のように見える。しかし実際は、子供のことを考えて足を運んでいるのではないのだ。

息子が成績を落としたり、窃盗行為を行ったりして、学校から精神科医を紹介されているにも関わらず、無視して足を運ばないと「子供のことを考えない親」のように周囲から見えてしまう。それでは自分たちのメンツが潰れるから、その場に足を運ぶのだ。彼らが息子に対して憎しみの念を持っているのも、自分の思い通りにならず、あげく成績を落とし窃盗を行い、自分たちのメンツを潰したからだろう。彼らは息子がなぜそうなったかを考えるよりも、自分たちのメンツの挽回の方が大事なのである。そもそも子供の気持ちになって考えるという感情自体無いのかもしれない。

息子が心理テストを受けることを拒むのは、家の中で息子をどう扱っていたかバレてメンツが潰れることを恐れているからだろう。もしかしたら虐待をしていたのかもしれない。そして自らが心理テストを受けるようなことや治療を受けるようなことは、彼らにはもっとありえないことだ。それは自分たちに問題があると認めることでありメンツが潰れるからだ。

そして、最後の息子への仕打ちは、そのメンツを守るための集大成のようなものだ。彼らは最初に面談を受けた時に、著者に息子を宿舎に入れるように言われたがそうしなかった。その後、息子は窃盗行為を行ってしまった。彼らは著者の言うとおりにしなかったことで、より悪いことが起きメンツが潰れたと感じているのだろう。

実際には、少年が窃盗行為を起こしたのは、最初の面談後、宿舎に入れなかったことではない。その後の学校生活はうまくいっていた。そのようなことを起こしたのは、少年がボランティアの代表として会議に参加することを、彼らが認めなかったからである。しかし、そういう自分の非を認めることは、メンツが潰れることだから受け入れることはないのだ。

そして彼らは自分たちが悪いのではなく、息子自身の問題だと考えようとする。著者のあなた達にも問題がある、治療を受けたほうが良いという話に対しては、全く聞く耳を持たず、子供は生まれつきの遺伝的問題だとまで言ってのける。

彼らは上品に振る舞っていても本質的には最初に書いた自殺した拳銃を息子に与えるような父親と同じなのだ。この労働階級の父親は、労働階級で良い教育を受けていないから、そんな事はわかるわけがないと、コンプレックス混じりのメンツを保つことに躍起になり、子供の問題に向き合わなかった。社会的ステータスの高い父親との違いは、感情のコントロールが下手で子供の人生を考えない親であることがわかりやすいというだけである。

そして上手く本性を隠せる社会的ステータスが高い彼らが出した答えが、
  1. 最初の面談で著者に宿舎学校に入れた方が良いという勧めに、今度は従ったということでメンツを保ち、
  2. 自分たちの息子への扱いが悪かったからこうなったのではなく、息子自身の問題だと思うことでメンツを保ち、
  3. 素行の悪さを矯正するために軍隊学校に入れることで、言いなりにならない息子を厄介払いした
ということなのである。その中に子供の気持ちや人生を考えるといった感情はない。ただ上辺の社会人らしさを保とうとしているにすぎないのだ。実際に周囲の人に「なぜ息子さんを宿舎に入れたのですか?」と聞かれた時、彼らはこのように答えるだろう。
  1. 最初に精神科医の先生に、息子を宿舎に入れるように言われが、親元を離れて暮らすより、愛情ある家庭で育てた方が良いと思った。
  2. しかし、窃盗行為を起こすまでになってしまい、やはり先生が言っていたことが正しかったのだと思い直した。
  3. 自分たちは息子が良くなるように努力してきたが、息子自身の問題は私達の手に負えないものだった。
  4. だから、問題行動を矯正するために軍隊学校に入れるしかなかった。
こう話せば周囲の人から同情を買うことだってあるだろう。 すべてはメンツを保つために計算づくなのである。

>>つづく

引用元の本。